合掌 チャンピオンたちが愛した人
林壮一さんの飲み会でいつも使っていた居酒屋さぶのご主人が亡くなられた…
林壮一さんが追悼文を書いたので転載します…
合掌 チャンピオンたちが愛した人
林壮一 | ノンフィクションライター http://rpr.c.yimg.jp/im_siggahIzQ5fpAWkNtfhO44JiWw---x64-y64/yn/rpr/soichihayashisr/profile-1378346719.jpeg
チャンピオンたちが愛して止まなかった方が永眠した。この店の御主人だった
チャンピオンたちが愛して止まなかった方が永眠した。この店の御主人だった
「哀しい…。死の直前まで、包丁を握っていたんだな。おじさんこそ、真のファイターだった」
全日本選手権に８連覇し、ロス五輪に出場したボクサー、荻原千春はそう言って唇を噛んだ。
「心が温まる最高の店だった。料理も本当に美味かった。おじさんと会うのが楽しみだったのに……」
ＷＢＡ世界ジュニアウエルター級１位の指名挑戦者として、”怪物”アーロン・プライアーに挑んだ亀田昭雄も淋しそうに呟いた。
彼らは、2010年11月に私が上梓したボクシングノンフィクション『神様のリング』（講談社）の登場人物である。出版以来、年に何度かボクシング好きが集い、食事会を催して来た。
毎回会場は同じ店だった。北浦和の「佐武」。
その店の御主人が先日、永眠した。享年７７。
この数年の間に、喉頭癌、舌癌、大腸癌を患い、何度も入退院を繰り返した。もちろん、その間、店は休業となった。それでも我々は、おじさんが笑顔で復帰することを信じ、また店が開く日を待った。休店期間が終わる度に、舌鼓を打ち、酒を飲み、楽しい時間を過ごした。
私も含めて、元ボクサーは不器用なタイプが多い。日々の暮らしで萎れた身体と頭をリフレッシュした。
が、今回＜復活の日＞はやって来なかった。
「生あるものは必ず通る道だけれど、もう、あの料理が食べられないのかと思うと哀しい。本当に素晴らしい人だったね」（亀田）
「おそらく死期を悟っていたのだろう。最後の瞬間まで店を守り、闘い抜いた。生き方を学ばせてもらったよ。おじさんに出会えて、本当に良かった」（荻原）
ボクシングのチャンピオンたちだけでなく、浦和レッズのファンにも愛された。Redsのホームゲームの日は、赤いユニフォームを着た客で溢れた。また、大宮アルディージャの現役選手や元中央大学サッカー部監督、ＢリーグのＧＭ、ヤクルトスワローズの方とも、この店で食事をした。小さな居酒屋だったが、御主人がかつて定食屋を営んでいたこともあり、いつも腹いっぱい食べることができた。
因みに私の担当編集者は、ほぼ全員が訪れている。皆が、ファンになった。
本当に料理が旨かったし、おじさんの人柄に惹かれた。
また一人、自分にとってかけがえのない人が、消えてしまった。
合掌
「哀しい…。死の直前まで、包丁を握っていたんだな。おじさんこそ、真のファイターだった」
全日本選手権に８連覇し、ロス五輪に出場したボクサー、荻原千春はそう言って唇を噛んだ。
「心が温まる最高の店だった。料理も本当に美味かった。おじさんと会うのが楽しみだったのに……」
ＷＢＡ世界ジュニアウエルター級１位の指名挑戦者として、”怪物”アーロン・プライアーに挑んだ亀田昭雄も淋しそうに呟いた。
彼らは、2010年11月に私が上梓したボクシングノンフィクション『神様のリング』（講談社）の登場人物である。出版以来、年に何度かボクシング好きが集い、食事会を催して来た。
毎回会場は同じ店だった。北浦和の「佐武」。
その店の御主人が先日、永眠した。享年７７。
この数年の間に、喉頭癌、舌癌、大腸癌を患い、何度も入退院を繰り返した。もちろん、その間、店は休業となった。それでも我々は、おじさんが笑顔で復帰することを信じ、また店が開く日を待った。休店期間が終わる度に、舌鼓を打ち、酒を飲み、楽しい時間を過ごした。
私も含めて、元ボクサーは不器用なタイプが多い。日々の暮らしで萎れた身体と頭をリフレッシュした。
が、今回＜復活の日＞はやって来なかった。
「生あるものは必ず通る道だけれど、もう、あの料理が食べられないのかと思うと哀しい。本当に素晴らしい人だったね」（亀田）
「おそらく死期を悟っていたのだろう。最後の瞬間まで店を守り、闘い抜いた。生き方を学ばせてもらったよ。おじさんに出会えて、本当に良かった」（荻原）
ボクシングのチャンピオンたちだけでなく、浦和レッズのファンにも愛された。Redsのホームゲームの日は、赤いユニフォームを着た客で溢れた。また、大宮アルディージャの現役選手や元中央大学サッカー部監督、ＢリーグのＧＭ、ヤクルトスワローズの方とも、この店で食事をした。小さな居酒屋だったが、御主人がかつて定食屋を営んでいたこともあり、いつも腹いっぱい食べることができた。
因みに私の担当編集者は、ほぼ全員が訪れている。皆が、ファンになった。
本当に料理が旨かったし、おじさんの人柄に惹かれた。
また一人、自分にとってかけがえのない人が、消えてしまった。
合掌
