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世界最強だった男 マイク・タイソンを葬った男 VOL9



世界最強だった男 マイク・タイソンを葬った男 VOL9 頂に達しながらも…

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ヘビー級が冬の時代を迎えて久しい。最後の実力者チャンピオン、レノックス・ルイスの軌跡を辿る。第9回


リフィールドとの再戦に向けたキャンプはいつになく厳しい取材規制が引かれ、スパーリングを見ることが許されたのは4ラウンドのみだった。試合に賭ける意気込みのようにも感じたが、ルイスの表情は冴えなかった。
リズム感やフットワークは、ゴロタ戦前と比較にならない。パートナーのパンチはよく見えていたが、手数は少なく、膝が伸びたままの状態で手打ちのパンチを放った。
 スパーリングパートナーにルイスの印象を訊ねると、
 「まだ、キャンプに入って間らないから、躰が重いんじゃないかな。昨日のスパーリングでもボクのジャブ、右ストレートがうまく当たったからねぇ」
 という回答だった。さらに疑問を 感じたのは、母親の振る舞いであった。
 ホリフィールドとの再戦を6週間後に控えたこの日、ルイスは練習時のジム内の温度を30℃に設定していた。徐々に身体を絞っていくことを目的として、高い温度にしておいたのだ。
 バンテージを巻き、ストレッチ終えた頃、スパーリングを見るためにルイスの母、バイオレットがジムにやって来る。すかさず英国人の世話係が椅子を促し、缶ジュースにストローを添えて差し出したのだが、バイオレットが「暑いわね、この部屋」と一言告げると、途端に入口の扉が全開にされた。スパーリング開始のゴングがなった時、おそらく室内の温度は3℃以上低いものになっていた筈だ。
 バイオレットは毎回、試合前のキャンプに参加し、息子の食事係を務めている。ルイスが母親を愛する気持ちは理解できるが、彼女がチャンピオン以上に発言力を持つ事実を目の当たりにすると、違和感を覚えずにはいられなかった。世界ヘビー級王者のトレーニングキャンプとしては厳しさの欠けたものであり、勝負師になり切れない男を見る思いがした。
 1999年11月13日、ラスベガス、トーマス&マックセンター。試合開始から、ルイスが判定での勝利を目指しているのは明らかだった。スチュワードの助言通り、ジャブを多用し、クリーンヒットの数もホリフィールドを大きく上回っていたが、1戦目以上にコンビネーションは放たなかった。
 それは負けないボクシングではあったが、見る者の胸を躍らす、あるいはボクシングの醍醐味をファンに与えるような闘いではなかった。無論、かつてルイスが語った「これぞヘビー級という最高レベルの試合」でもなかった。
 むしろ、ルイスのパンチを掻い潜り、何とか接近戦に持ち込もうとひたすら前に出るホリフィールドの方が、“闘う”ことの意味を知っていた。
 ボクシングの世界には「噛み合う」という言葉がある。ホリフィールドはルイスにとって噛み合わない相手であり、ゴロタは他に例を見ない程噛み合う相手だった。
 プロである以上、最も大事なのは結果を出すことである。だが、ボクシングファンとはいかなる時も死闘に酔いしれることを願う。統一世界ヘビー級タイトルマッチという頂上決戦において、見せ場を創ろうとしないルイス、はなから安全運転を選ぶこのチャンプに、己の時代を築くことはできなかった。
 「プロボクサーとは、ファンに何を期待されているのか頭に入れて闘うべきだ」
 ゴロタ戦の前、ルイスは確かにそう言った。にも拘わらず、己の言葉を裏切ろうとしているのだった。
 結局、このリーンマッチは3-0の判定でルイスが勝利を飾り,統一ヘビー級王者となったが、私は彼を華のない世界ヘビー級チャンピオンとして 認めざるを得なくなった。私だけではない。『ラスベガス・リビュージャーナル』紙の記者、ケヴィン・ロールも翌日の誌面で記した。
「統一王者となったが、 ルイスはヘビー級史上におけるベストファイターではない。彼のジェネレーションのなかでも最強というわけではない。ホリフィールドの果敢なアタックに自身のパンチで応じはしたが、そのハートに向けられる疑問符を払拭できなかった」
 ルイスは、マイク・タイソンイベンダー・ホリフィールドリディック・ボウという、これまでの統一ヘビー級チャンピオンとは決定的に違っていた。彼にはボクサーなら誰もが当然のように持ち合わせている筈の闘志と、獲物を完膚なきまでに叩きのめす冷徹さが無いのだ。人気が無いのは3人の元統一王者と国籍が異なっているからではなく、欠陥を抱えたファイターであるからだった。
 ロール記者が述べたように、タイソン、ホリフィールド、ボウの全盛期に対戦していたなら、果たしてルイスは勝てたのか。彼が統一王座に就けたのはタイミングが良かったからに過ぎない。そして、ゴロタ戦は偶発的なKOに過ぎなかった。これ以上ルイスに期待するのは無意味だ-----。私はそんな結論を出しつつあった。
 7年ぶりに誕生した統一ヘビー級チャンピオンであっても、ルイスはボクシング界の主役にはなれなかった。時を同じくして、フェリックス・トリニダード、オスカー・デラホーヤ、シェーン・モズレー、フェルナンド・バルガスといった中量級王者たちによる潰し合いがスタートし、彼らの対決はルイスの決め手に欠けたボクシングよりも熱気を浴びた。若さに満ちた中量級チャンプたちには、かつてのトーマス・“ヒットマン”・ハーンズがそうであったように、自らの生命を燃焼させながら死力を尽くすスピリッツがあった。
 2000年、ルイスは3度の防衛に成功する。そのうち2つはノックアウトだったが、実力差があり過ぎる相手であり、指名挑戦者を迎えれば、ホリフィールド戦と変わらない消極的なファイトを演じた。凡戦こそがルイスの戦いであるように映った。
 スチュワードは、「レノックスは自らの力を出し切っていない」と言い続けた。私自身もルイスが100%の力を出すシーンを見てみたかったが、そんな日はやって来そうもなかった。米国で行われる彼の防衛戦は取材したが、キャンプからは足が遠のいた。ルイスにさほど魅力を感じなくなっていたのだ。

 林壮一さんのレノックス・ルイスの記事、第9弾!